姫女苑・クローバー

やはらかき星を歩けばクローバー

クローバーは春の季語。白詰草(シロツメクサ)・苜蓿(ウマゴヤシ)とも言う。まあ、春の季語となるとできれば四月に詠みたいところだけれど、今年は四月が寒かったからか、うちの近所では今真っ盛り。上を見れば新緑が爽やかな緑をまき散らし、下を見ればシロツメクサや姫女苑がゆらゆらと風に泳いでいる。
こんなに美しい季節はやはり五月をおいて他にない。

街中に住んで、いつもおんなじアスファルトの道を歩いていると、すっかり忘れてしまうのだ。
この地球が優しい土と草に覆われている、とてもとても柔らかい星だということを。



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うら若きふたりの距離やクローバー

クローバーの咲き乱れる公園の中を大満足で散歩していると、30メートルくらい先に、若いカップルらしき人影がこちらへ向かって、歩いて来るのがぼんやり見えた。
何せ視力が落ちている今日この頃。老眼の度も、そばのものは壊滅的に見えないが、遠くのものはクリアに見えていたのに、このごろはすっかりだめで、遠くのものもぼんやりしてきた。老眼の他に、遠視も進んできたと言われたのだが、不便なものだ。

だがどうにも眼鏡というのが性に合わない。ずっと視力が良かったから、老眼が始まるまでは、眼鏡の世話になったことはなかった。眼鏡を長時間していると、皮膚が弱いので、鼻の横に黒っぽい痣のようなものができてくるし、パソコン作業や読書の距離に合わせて、2つの眼鏡を作ってあるが、しょっちゅうそのどちらかを探している。
たまに、主人が笑いをこらえながら、眼鏡を二つかけている、と教えてくれる。
つまり、一つは頭の上へ乗せたまま忘れて、もう一つかけてしまうのだ。

二人は、まだ15,6歳くらいの雰囲気だ。
それは、ぼんやりとしていても、わかる。 服の雰囲気と、1・5メートルくらい、互いに横に距離を置いて歩いている、ちょっとぎごちないその感じで、わかる。
まだカップルと呼んでいいかわからない、でもただの友達ではなさそう、そんなうら若い、二人なのだ。

ところが、ん?なにか、女の子が不自然な挙動。
あれ、目を拭いている。涙をぬぐっているのだろうか?微妙に男の子からの距離が遠くなったり、またまた近くなったりしながら、フラフラ歩いて来る。 まるで酔っぱらっているかのよう。

えーっ!?泣いてるのかな。 あんなに若々しい二人が、まさか別れ話? まだ早いんじゃない?
いや若いカップルだって、カップルというからには別れることだってあるだろう。初恋は実らないというではないか。
でなけりゃ、男の子がもう一人付き合っている娘がいるとか。あんなに若いのによくやるなあ。

可哀想に、女の子はついに両手で顔を覆ったりしながら、歩いている。

さてどうしたものか。  私はこのまま直進するのが気まずかった。
少し二人の来るであろう方向から右側にずれて、それでも引き返すわけにもゆかず、そのまま前へ歩いて行った。

二人は相変わらず距離を広げたり、縮めたりしながら、特に女の子は立ち止まったり、また歩き出したり。よっぽどまともに歩けないような心理状態なのだろうか。

しかし私と二人の距離がいよいよ縮まってくると、全てのことが、明るみになった。

男の子は、ごく優しそうな顔立ちでにこにこしていて、相当面白いことを言っていたのだろう、女の子を笑わせていたのだ。女の子は、あまりの可笑しさに耐え切れず、涙を流して笑い、まともに歩けず、よろよろし、不自然な歩き方になっていたのだ。

なーんだ! 全く、人騒がせな視力だ。
私はほっとして、道理で、あの二人の初々しい距離感に、別れ話はどう考えても不自然だ。そう思った。
あの距離感は、まだこれから、新しいものが始まっていく、そういう可能性に満ちた距離感なのだ。

あの二人は、これから恋人同士になるのだろうか。   うーん、それは誰にも分らない。



木漏れ日の斑母子にクローバー

別々に生きてきた二人が出会って、愛が始まる。
一つの命からもう一つの命が離れて、愛が始まる。

別々だったものが、一つになったり、一つだったものが別々になったり、それが繰り返されて、きりがなくって、まるで終わりのない子守歌みたいだ。










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缶蹴りの鬼に夕暮れ姫女苑

姫女苑。そんな名前を意識もしなかった。子供のころ、いつも身近にありすぎた花だから。
お決まりの遊び場になる小さな空き地、ブロック塀の周り、校庭の裏庭、高架線の下の日陰、歩道の敷石の細い隙間、ありとあらゆるところに、この花は咲いていた。

でも、ひょろひょろした頼りない茎のせいか、白くか細い綿の糸のような花びらのせいか、どうも心細かったシーンにイメージが呼応する花だ。


姫女苑少女のこころに高き塀



姫女苑みるみる日陰に吞み込まれ



姫女苑不安不安と風に揺れ



瞬きをするたび闇に姫女苑



姫女苑迷子のままに年を取り

9歳くらいだったと思うが、マンションに住んでいる友達の家へ一人で遊びに行くことになった。
その時代、マンションなどというものに住んでいる友達は、後にも先にもその子だけだった。
大抵の家は木造の平屋だった。だから否が応でも期待は膨らんでいた。

しかし彼女の家は、駅の向こう側の町で、その年頃の自分は、そちらの町内へ一人で遊びに行ったことは、まだなかった。冒険だったが、地図も書いてもらったし、なにせ「マンション」というものに興味深々だったから、一人で行ってみることにした。

当日、駅を越えて、緩やかな坂を私は登って行った。期待でわくわくしていた。
そして教えてもらったマンションについた。ここに間違いない。

ところが!
全く思いがけないことが降って湧いた。

「エレベーター」、それも自分で運転する「エレベーター」に乗らなくては、5階の彼女の家にたどり着かないのだ。最も後で考えれば、どこかに階段があっただろうに、それさえ頭が回らなかったのだ。

その時代、「エレベーター」なるものは、デパートにあって、蝶々のように綺麗な大きなお姉さんがすべて誘導してくれるものと、相場は決まっていた。
個人宅とエレベーターなんてものは、全くのところ、イメージが結びつかなかった。

私は怖気づいた。
一体どうしたものだろう、どのボタンを押して、どうエレベータを呼んで、中へ入ったら、まずどうすればいいのだろう。もし閉じ込められて出てこれなくなったら、どうしたらよいのだろう。
汗が噴き出してきた。

一人エレベーターの前で悶々としていると、帰宅してきたそのマンションの住人だろうか、優しそうな中年女性が、「どうしたの」と声をかけてくれた。私はほっとして、5階の「○○さん宅」へ行きたい旨を話した。
そして親切なその中年女性にお世話になって、やっと友達の部屋へたどり着くことができたのだ。

一人っ子だった友達は、当然の成り行きなのだろうが、大人っぽく、ませていた。

その日彼女の家で何をしたか、
ほとんど忘れているのに、たったひとつだけ、覚えていることがある。
彼女の家でお昼をご馳走になったのだが、里芋の煮物がおかずの一つに、出された。
それを食べながら、友達が言った。
「里芋って、白芽より、赤芽のほうが、美味しいんだよねー!」

私はなんだか、びっくりした。もちろん親が常々言っていることを、そのまま言っただけなのかもしれない。
だがおよそ9歳くらいの子供の言葉らしくないということが、9歳の子供にも漠然と分かったのだ。

やがて夕方になり、私は帰ることになった。
今度はちゃんと、エレベーターで下まで送ってもらった。

後は駅にたどり着くだけだ、そうすればもう、いつものかつて知ったる自分の町だ。
私はなんだか軽い気持ちになって、さっき来た坂道を、降り始めた。

だがなにか妙だった。
駅からはそれほど距離が離れていないはずなのに、駅周辺のデパートのネオンや時計台の時計が、一切見えてこない。
おかしい、いつの間にか違う道へ入ってしまったのだろうか。まさか反対の方角へ突き進んでいるのではないかしら。もしかして、違う町内へむかっているのでは?
夕暮れが迫ってきているのも、得も言われぬ心細さに輪をかける。
またもや私はじわじわと汗をかいた。必死で歩いた。真っ直ぐ行けば駅に着くはずなのに、どうしてデパートのネオンが見えないのだろうか。
不安な気持ちが夕暮れの青さと完全にシンクロしていた。
あの時の心細さだけは、今でも忘れられない。

しかししばらく行くと、徐々にいつもの馴染みのデパートのネオンが見えてきたではないか!
何のことはない、その町は坂になっていたので、
駅周辺のほうが低くなっていて、しかもその坂はカーブしていたから、なかなかそのあたりの建物が見えてこなかっただけだったのだ。

あの時の安堵感も、心細さとセットで忘れられない。
安心して、体中にどっと血が巡ったのだろう、なんだかいやにポカポカしてきたのを覚えている。


それにしても・・・なんだかこんな事を繰り返して、この年まで来てしまったような。・・・・・







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いつもご訪問頂きありがとうございます。 「俳句とエッセイ時々音楽」のブログ名を、「A Cup of俳句」に改名させていただきます。宜しくお願いいたします。

プロフィール

ネコヤナギ

Author:ネコヤナギ
俳句は一行詩。コンパクトな宇宙です。それと日々出会う物・事を気ままに綴り、ジャンルにこだわらない音楽のことも少し。俳句は1994年から書き溜めていたものを2017年1月から遡ってまとめました。
50代後半、双子座・A型・主婦兼グラフィックデザイナー。在宅ワーカーです。
趣味は俳句・デザイン・音楽・手織り。最近ホロスコープの奈落に足を突っ込んでいます。

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