春・アラ・モード

葉桜に学生服の続く坂



葉桜が風を集める坂の上



もう一度やり直せるか遅桜



山吹や自転車の子の帽子飛ぶ

風の強い日だった。前から走ってきた自転車の少年の、黒い野球帽が吹っ飛んだ。
私の眼の前だったので、それを拾って振り向いた。
「すいませーん」と言ってUターンして来た少年は、人形のように色白の睫毛の長い、綺麗な少年だった。
帽子を渡すと、恥ずかしそうに会釈をして、走って行った。
あれでは、お母さんは溺愛しているだろうなとか、そういうのが、鬱陶しくなり始める年頃なんだろうなとか、埒もない事が頭の隅っこに浮かんでは消えた。
そういえば、自分があのくらいの年齢の頃、小学校5年生だったかな、学年の終わりに、クラスで記念の文集出したり、色紙に寄せ書きしたりした時のこと。
今思うと笑ってしまうけど、判で押したような決まり文句、「炎の青春に向かって」と色紙に書いてあったのを見て、「青春」という言葉の正確な意味がどうも分からなかった。
読書も好きで、ませていないほうでもなかったのに、「青春」の正しい意味が、なにか腑に落ちなかったのだ。
さて困ったのは、まわりの友達だ。意味を尋ねた私に、
「うーん、だからさ、青春、なんだよ」「そう、そう」。
小学5年生の語彙をもってしては、だれも納得のゆく説明ができなかったのだ。
「青春は、青春だよ」「ねえ」。

その少年の自転車が疾風のように去った時、私はこれでいよいよ春が来た、と確信した。


山吹が午後の安穏搔き乱す



何かといえば小鳥来る睡り来る



春眠の底は真昼のグラウンド




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青々と人の名の出ぬ春の空



コロッケまだ胃の腑のあたり春の昼



春昼の何処かの路地で時止まり



後ろより友が駆け寄る春外套

久しぶりに友人とランチをした。
言わば青春時代を共有したひとりなのだが、その後30年くらいは音信不通だった。ひょんなことから巡り合って、また時々会うようになった。

ランチタイムは短い。
お互いにラフ・スケッチを描く程度にしか自分のことを語れない。
でも若い頃をともにしている友人というのは不思議なもので、共通のイメージの分母を持っているようなところがあって、言葉の数はそれほど多くなくても、言わんとすることは想像がつきやすい。

そんな彼女は、この街に来ると、「胸キュンで、過呼吸症候群」になってしまうという。

この街は、私にとっても、青春時代の思い出の詰まっている街だ。友人も、恋人も、全てはこの街が始まりだった。それは彼女にとっても同じだが、違うのは、彼女にとっては、生まれたのも、育ったのも、この街で、言わば第一の人生も、第2の人生のスタートもここから始まっている、正真正銘のオール・イン・ワンのスーパー故郷である、ということだ。

お互いに順風満帆な人生などとはとても言えない。
だからといって、波乱万丈というのもぴったりこない。
ただ、本気で他者と関わっていけば、どんどん思いがけない方向に追いかけるボールが転がって行った。
こっちに行けばいいのに、と思っていても、あっちに行ってしまうボール。
あっちに行くとうまくいくな、と思っていると、こっちに来てしまうボール。
まるで不思議の国のアリスだ。
そして、起きてくることに、全身全霊で対処しているうちに、あっという間に年月が経ってしまったのだ。

「胸キュンで、過呼吸になってしまう」のは、単なるスーパー故郷の懐かしさだけではなく、「あの頃に戻って、違った人生の選択をしていたら、どうだったろう」、というような感傷を、この街が感じさせるからだ、と言う。

ロマンチストなんだなあ。
私などは、土台無理なことは、最初から空想できない。ぴたっと思考が止まる感じ。
でも春だからなあ。
桜も雪柳も椿も菜の花もみんな咲いてりゃ、そういう気持ちだって、ふわーっと膨張するってもんかもしれない。

自分に関しては、ただひとつのことしかわからない。
自分らしく生きてきた。だから傷をいっぱい持っている。
たとえタイムラインを戻せても、自分らしく生きたら、やっぱりそんなに楽ではないんじゃないか。
そんな気がする。

人生って言葉、あまり好きじゃないんだけど、
人生にどんなに手紙を出しても、返事が来たためしなんかない、そう思う。







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いつもご訪問頂きありがとうございます。 「俳句とエッセイ時々音楽」のブログ名を、「A Cup of俳句」に改名させていただきます。宜しくお願いいたします。

プロフィール

ネコヤナギ

Author:ネコヤナギ
俳句は一行詩。コンパクトな宇宙です。それと日々出会う物・事を気ままに綴り、ジャンルにこだわらない音楽のことも少し。俳句は1994年から書き溜めていたものを2017年1月から遡ってまとめました。
50代後半、双子座・A型・主婦兼グラフィックデザイナー。在宅ワーカーです。
趣味は俳句・デザイン・音楽・手織り。最近ホロスコープの奈落に足を突っ込んでいます。

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