9,10月 名月 (2009)


天と地と篩分けられ秋となる

秋になった。そう思う日がある。今年はとても早いような気がする。その日は、空と陸地がきれいに分かれていると感じる日なのだ。空の要素は空に、地の要素は地に、篩分けられたように、納まっている。


月明に金の坩堝の硝子戸かな



月光夥しく木の根に昆虫眠る



虫の声堆積し地の果てには月



ひたひたと月のひかりの天に満つ




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夜空八方月の光の染むばかり

ある晩、ふと見ると何か天窓が尋常でなかった。
天窓のガラスは素通しではなく、でこぼこの模様になっているから、直接に外の景色は見えない。
そこが、金色に輝いているのだが、あまりにもその光が強烈だったので、「月の光」という発想は浮かばなかった。

しかしベランダに出てみると、果たしてそれは「月の光」だった。
ちょうど子供が家にいたので呼ぶと、「うわー、なんだこれ!」

月自身が鏡のように鋭利に輝いているのは、この季節には珍しくないが、月のまわりの夜空までも、そのしんしんとした金色の光に、大きく丸く、どこまでも染まっている。
驚いたのは、その光の半径の大きさだった。今までに見たこともないほど、その光輪は巨大だった。
その光は遠くへ、遠くへと、恐ろしいほど速やかに届くのだろう。

自然科学の方は苦手だが、発せられたあの月の光が、遮るものの何もない空間で、消え入るまで、どのくらいの距離があるのだろうか。 
埒もなくそんなことが頭をかすめる。
いや、自然科学なんて言い出したら、そもそも「月の光」なんてものは存在しなくなっちゃう。
元はと言えば太陽光線が月に反射しているだけなのだから。

でも物質的な真実はどうあれ、私にとって、生まれてこの方、馴染んでいる月の光は、やはり「月の光」なのだ。

これほど強烈な燦然たる光でも、底のほうに揺るぎない静けさのようなものが、ある、光。
どこまでも深く「覚醒」してゆくような、そんな透徹した光だ。


しかしこの時から二度と、再びあんな月に遭遇したことは無い。
虫の声もこの辺りでは、年々寂しいものになってきていている。
大体が、初秋という季節が無くなってきているのだ。
色々なものの生態系も狂ってくるというものだ。 恐ろしくて、そしてつまらないなあ、と思う。




鰯雲空の方位をほどきをり



湯の窓を開ければここも虫の声



月明や浴後の肩になめらかに



夕焼けの一刻後の様変わり



居残りの野球少年夕焼ける



また岐路に立たされている秋夕焼け




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秒針の音のみ聞こえ木犀香



頂点に昼月白く木犀香

樹の花の香というのは、天気や風向きによって、本体からちょっと離れた、思いがけないところで、濃密にわだかまっていたりする。木の魂が、ちょっと幽体離脱しているかのように。


青蜜柑茎も葉も実もひとつ色

近所に蜜柑の木を植えてある家がある。もう少しすると、実の部分が少し黄味がかってくるのだが、まだ実の色は茎や葉と全く同じ緑色である。
樹を構成しているすべてのものが同じ色なので、さながらブロンズ像のような、不思議な印象がある。
果実というより彫像のような、硬質な物に見えてくる。
庭の中の様々な植物の中で、この樹だけがなにかの魔法にかけられてしまったかのようだ。


カレー鍋重きを洗い秋の星



秋雨にビルの灯燻る鍵の音



高架線窓の灯並び虫の声



虫の声高層マンションの灯ちらちら



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耳の中の小部屋に秋が棲みつきぬ




秋の風野良猫逃げて路地深し

この辺の野良猫は、みな痩せて鋭い目つきをしている。
呼び止めれば、逃げた方がいいか、それとも実入りがあるのか、どちらへ転んでもいいような態勢でぴたりと静止し、一分の隙もない。
この辺の飼い猫は、中肉が太りすぎかのどちらかで、呼び止めると、甘えて鳴いて、少し警戒しながらも寄ってくるか、気怠そうにこちらを一瞥して終わりか、のどちらかである。

秋夕焼け鏡の中にいよよ澄み



交差点人に混じれば秋の風



天高し全き林檎が宙に浮き



林檎剥けば螺旋階段秋の空まで

ルネ・マグリットの絵が好きだ。
シュール・レアリスムといえども、とてもポップな感覚もある。
マグリットの絵のなかの大気は、日本だったら秋だと思う。透明で、密度が高く、ひんやりしているけれども、寒くはないのだ。



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お知らせ

いつもご訪問頂きありがとうございます。 「俳句とエッセイ時々音楽」のブログ名を、「A Cup of俳句」に改名させていただきます。宜しくお願いいたします。

プロフィール

ネコヤナギ

Author:ネコヤナギ
俳句は一行詩。コンパクトな宇宙です。それと日々出会う物・事を気ままに綴り、ジャンルにこだわらない音楽のことも少し。俳句は1994年から書き溜めていたものを2017年1月から遡ってまとめました。
50代後半、双子座・A型・主婦兼グラフィックデザイナー。在宅ワーカーです。
趣味は俳句・デザイン・音楽・手織り。最近ホロスコープの奈落に足を突っ込んでいます。

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